○六花さんから頂きました○

 






今日で六日目…また来ていたな…

プラットホームに数日間、毎日通ってきては、
最終電車を待ち、乗客が降りて来るのを眺めて、
いないと分かれば、
溜息を一つ吐いて帰って行く20前後の若い女性。

駅というものは、人の生き様が
行き交う場所である。

出張などで忙しげに乗車するサラリーマン。
遠距離で、短い逢瀬の後、
やがて名残惜しそうに抱き合って別れる恋人達。
単身赴任の主人の元へ久しぶりに通う妻子。
明らかに不倫の関係だと分かる
含み笑いで、もたれあってる男女などなど。
本当に―――さまざまなのだ。

しかし、翌日の事だった。
今夜に限って、その女性は…来なかった。

止めたのか?

腕時計を見たが、定時は、とっくに過ぎている。
階段に視線を向けた時、
息も荒く、その女性は駆け上がって来た。
よほど慌てて、走ってきた様子だ。

電車がない事に気づき、
自分の方へと近づいて来るその女性をじっと見ていた。
近くでみると思いの外、若い事に気づく。

「すみません、いつも来る最終の電車は?」

「車庫に戻りましたよ」

穏やかな声で礼儀正しく答えてやる。

「誰かを待ってるような様子の人はいませんでしたか?
背の高い…男の人なんですけど」

「さぁ…それらしい様子の男性は、おりませんでしたね。
降車したお客様は、この通り、一人もおりませんし」

自分たち以外、誰もいなくなった空のプラットホームを示す。

「ですが、今日は――」

一気に力が抜けたように、傍にあった椅子に女性は
腰を下ろしてしまった。

「…そうですか。やっぱり駄目だった」

ぽつん、と彼女は呟き、
何もない線路の砂利に視線を向けていたが、

「駅員さん、アナウンスしている声って、あなたでしょう?
良い声ですね」

「まぁ、仕事ですから」

「…私の話を聞いてもらえます?
独り言だと思って聞き流してくださっても構いません」

返事をする前に、女性は話し出していた。
仕方がない…と内心思いながらも、
聞いてやることにした。

「私の母は早くに亡くなりまして、父は仕事で外国に
いる機会が多く、ほとんど祖父に育てられたんです。
しかし、祖父一人でも手の余る時もあるそんな時は、
父の幼なじみで、私の生まれた時から、
知っている男の人が手を貸してくれました。
私と十五の年の差です。
小さい頃から、ずっとその人の事が大好きでした」

「幼い時から、手なづけてたか…」

「え?何ですか?」

「失敬、話を続けてください」

「その人と、つきあう女性を知るたびに、
嫉妬しました。
でも、その人がまだ独身でいるのが救いだったんです。
…私が大学で東京に来てからというもの、
彼も仕事で、ほとんどこっちにいるので、
会う機会が増えると思い嬉しかったんですけど、
連絡するたびに、どんどん避けられるようになりました。
ある日、電話で言ってみたんです。
『つきあって欲しいって、男の人に言われたの…』って。
そうしたら…」

「『大人になったんだから、自分で考えるべきだ…』
そんなところですか?」

「当たり」

にこっと微笑んだが、すぐにその笑みは消え、
俯くと隠すように手で眦を拭い始めた。

「私、頭に来て、ずっと何年も溜めていた思いを
ありったけ吐き出しました。
好きなのに、どうして分かってくれないのって。
自分の気持ちは憧れだけじゃないと。
そして、勝手に約束を取りつけたんです。
もし、思いに応えてくれるなら、
七日以内に最終電車で来て。
ここで待ってるから…返事も待たずに電話切ってしまいましたけど」

バッグからハンカチを取り出すと、
手のひらで、きつく握りしめた。

「でも無理だったみたい…。
本当に…諦め悪いですね」

「さぁ、どうでしょう?」

腕時計を見て呟いた時、
ホームの遙か向こうから音が聞こえてきた。

女性は、ふらりと立ち上がり、驚いた表情で
遠くからやってくる列車を見ている。

「今日は臨時列車が出ていたんですよ。
言う機会がありませんでしたから。
さて、今度は乗っていますかね?」

先ほどまでとは、
うって変わった人の悪い笑みで
説明したのだった。



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六花さんに戴いてしまいました〜!!!
ブログに書いてた駅員の斎藤先生です。

モノクロイラストが何とも良い味を出してるじゃないですか〜vv

(私の駄文は完全に蛇足ですが…)

舞台での鈴置さんのアナウンスは、
まさしく斎藤先生の声です!!と
聞いた方からは必ず同じご意見でした^^

こういう駅ないでしょうか?(オイ)

六花さん、いつも素敵なイラストを描いてくださり、
どうもありがとうございました〜vv


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