貴方と見る雪桜






桜の季節。
東京だけでなく何処もかしこも花見を楽しむ人でたくさん。
桜の下で酒を飲み、愉快に歌ったり踊ったりと皆頬を桜色に染めて楽しんでいる。
こんな穏やかで平和なところにも不穏な手が差し伸べられる事もある。
事故だけでなく喧嘩や盗み、はたまた大惨事となる事件も起こり得る事があり、
こういう事が起きないように、起こさせないように日頃よりも巡邏を厳しく
しなくてはいけない警察は休みなどない。
丁度たくさん桜が満開に咲いているところを通った斎藤は足を止めた。

 「いい気なもんだ。」

はあっと溜息を吐いて、斎藤はにぎやかな場所を見つめる。

 (昔俺も、あんな事をしてたか・・・・)

昔を思い出しながら斎藤は再び歩き出した。
周りに細心の注意をはっている斎藤はふと、頭の中にある事がよぎった。

 (・・・・・・時尾)

斎藤は一瞬立ち止まりそうになったが、そのまま警察署へと向った。

 

 

 

 「今日は特に事故はあらへんかったみたいやな。」

 「・・・・・・・・・・ああ。」

 「人の話聞いてへんやろ。」

何の反応もない斎藤を見て、張は呆れたように言った。

 「さっきからなんやねん、暗い顔して。ああそうか、いつもの事やな。」

 「・・・・・・・・・・ああ。」

無反応の斎藤は煙草の火を消した。

 「自分、ほんまに聞いてへんやろわいの話。」

 「・・・・・・・何か言ったか。」

 「もうええ。」

諦めた張は壁にもたれ掛かった。

 「せや、川路はんから伝言預かってたんや。
   今日は急ぎの仕事があるから少し仮眠しておけやそうや。」

 「ん・・・・・・。」

まるで耳に入っていないかのように返事をした。

 「・・・・ボケた?」

ぼそりと言う張にすこーんと乾いた音を出しながら頭に灰皿が当たった。

 「・・・っだ、何すんねん!?」

 「灰皿を投げた。」

 「いや、そうゆう事やのうて・・・・・もうええ、疲れた。」

思いっきり肩を落とした張は部屋からと出て行った。

 「・・・・・寝るか。」

そう言うと斎藤はすっと立ち上がり、仮眠室へと向った。

 

 

 

 

 「斎藤、ご苦労だったな。」

 「別に苦労なんざ思ってませんがね。」

夜の暗闇の中、小さな声で話しているのは川路と斎藤である。

 「今馬車を呼んでいるが、どうする、もう遅いし何処か手配するか?花町でも構わんが。」

 「いえ、結構です。このまま帰ります。」

斎藤は川路の誘いを断り、さっさとその場を後にした。

 「妻一筋って訳か。」

斎藤の姿が消えるまで、川路はその後ろ姿を見ながら馬車を待った。

 

 

 

 

そっと玄関の戸を開ける斎藤は静かに家の中に入った。

 「一さん、お帰りなさいませ。」

奥から時尾の姿が現れ、斎藤を出迎えた。

 「まだ起きていたのか。」

 「貴方が帰ってきますから。」

時尾は斎藤の刀を受け取った。

 「お風呂、暖かいですよ?」

 「・・・・先に寝てろ。」

そう言うと斎藤は風呂場へと言ってしまった。
自分の事を思ってくれていると感じた時尾はふっと笑みを零し、寝室へと向った。

 

 

 

風呂から上がった斎藤は寝室に向うと、そこには時尾の姿はなかった。
障子が開いており、縁側へと出るとのんびりと座っている時尾の姿がある。

 「時尾、寝てろと・・・・・」

 「桜。」

斎藤の言葉をさえぎって時尾の声が耳に届く。

 「夜桜、間に合って良かった。」

 「間に合う?」

彼女の視線の先を見やるとどこから来るのか、
月の光に照らされて宙に舞っている桜の花びらであった。

 「一さん、お座りになられたらどうですか?」

 「ああ・・・・。」

立っていた斎藤は彼女の横に座り、また桜の方を見た。
風がゆっくりと吹き、桜の花びらがひらひらと舞っていく。

 「ねえ一さん、まるで雪みたいですね。」

 「そうだな。」

時尾はくすりと笑い、斎藤の方を向いた。

 「春に雪を見れるなんて、不思議ですね。」

幸せそうに笑う彼女に斎藤は少し間を置いて聞いた。

 「時尾、今日昼に桜見に行ったか?」

舞い散っている桜の花びらを目で追いながら言う斎藤に時尾は答えた。

 「いいえ、見てませんがそれが何か?」

 「・・・・前に花が好きだと、言っていただろう?だから見に行ったのか気になっただけだ。」

自分に遠慮して見に行っていないんじゃないか、そんな思いが斎藤の中をずっと取り巻いていた。
そんな斎藤の気持ちを察したのか、時尾は笑って答えた。

 「貴方と一緒に見れない桜なんて、見ても仕方ないでしょう?」

ゆっくりと言う時尾の方を見る斎藤は、すっと体から力が抜けていくように感じた。

 「私が好きな花は貴方と見る花だけですよ。」

 「・・・・・・そうか。」

少し照れた風に口元を歪める斎藤を見て、時尾は小さく笑った。
しばらくすると風が止み、花びらが見れなくなった時、斎藤は低い声で言った。

 「明日見に行くか桜を、どこか静かな所に。」

 「はい、その時にはお酒飲みましょうね。」

夜空を見上げている斎藤に微笑みかけた時尾もまた夜空を見上げた。



  



栗饅頭」の誠さんに、リクエストして書いて頂きました〜♪

カウンタ3600HITを運良くゲットしちゃったのです^^

斎藤×時尾で、ちょうど今が旬なので、桜のお話でお願いしますvと、

ずうずうしくお願いしたのですが、 こんなに素敵な小説を書いてくださいましたぁ〜(涙)

誠さん、本当にどうもありがとうございました!!