とある午後の日に…

 

 

 

読んでいた書類から顔を上げ、突然、席から立ち上がったので、
側に控えていた部下の一人が、怪訝そうな顔をして、土方に尋ねた。

「副社長、いかがいたしました?」

「今日、斎藤は部署にいたよな?」

「斎藤部長ですか?はい、確か外出予定は、入ってなかったようです」

「じゃあ、行って来る」

「副社長、自分が行きます!!
それに、まだこの書類が残ってるんですよ」

慌てて呼び止めようとする部下を視線で制し、

「一日中、席に座ってばかりじゃ、身体も鈍るってもんだ。俺が行く」

「…10分で、お戻り下さい」

これ以上止めても無駄な事と諦め、部下は自らの腕時計の時刻を確認する。

「ったく、少しは、自由にさせやがれってんだ」

鬼の副社長が廊下を歩いていると、社員は皆、一様に驚き、恭しく頭を下げて行く。
女性社員からは、ひそひそ話と、彼の容姿に、うっとりとした視線を浴びせてくるものの、
そっけなく流し、土方は目的地へと足を進めて行く。
斎藤の部署のドアに手を掛け、勢いよく開けようとした時だった。

「やっ、だ、駄目です。斎藤部長!!」

「動くな、おとなしくしていろ。
こんなに濡れて…入らない筈がないだろう」

「ま、待って。い、今、アレを持って来ますから。このままじゃあ…」

「必要ない」

何?
室内からの声に、土方の動きが、ぴたりと止まった。

「あっ!!嫌ぁ、本当に無理です…ここじゃ、出来ませんっ!!」

「いいから、もっと大きく開け」

「ああ、痛っ!!ぶ、部長、もう…もう無理ですっ!!
これ以上、入りませんっ!!」

「我慢しろ、もう少しで良くなる」

真っ昼間から、神聖な職場で、何やってんだ!?

自分の日頃の行いは棚に上げて、土方は、
腹立ちが、おさまらず勢いよくドアを開けた。

そして、土方が見たものは、
机の上で折り重なる二人の姿
…ではなく、

「ふう、何とか大丈夫です。
ああ、痛かった…。
あ、副社長…今、目にゴミが入ってしまって、目をこすったら、
コンタクトレンズが外れかかってしまって、部長に入れてもらっている所だったんです。
目薬を持って来て、さした方が良いと思ったんですけど…」

「何の用です?」

秘書が涙がこぼれた自分の目をハンカチで押さえて、
彼女の目の具合を見る為に屈みこんでいた斎藤が姿勢を戻し、
土方を見るや、口元に不敵な笑みを浮かべた。
秘書に気付かれぬよう…。

…こいつ、俺が、どういう想像してたか見抜いてやがるっ!!

「……何でもねぇよ、邪魔して悪かったな」

と、一旦、部屋を出かけたが、
入口で足を止めて、振り返る。

「主語は、きちんと言いやがれっ!!」

そう言うと、
大きな音を立てて、ドアを閉め、土方は出て行ってしまった。

「部長…副社長、どうしたんでしょう?
何か誤解をされてたご様子でしたが…」

「さあな」

不思議そうな彼女の頭に、斎藤は、ぽんと手を置く。

「用事を忘れて、戻ったんじゃないか?ところで、目は、もう治ったのか?」と、

内心おかしさを隠し、さりげなさを装いながら秘書に尋ねたのだった。






■あとがき■

実は、コンタクトレンズなのでした…と、
こういうアホネタで、エロ台詞が出て来るのが、好きなのであります!!
(本当のエロは、到底書けませんが…^^;)
土方さんも、ある意味災難ですね。
ドア開けようとしたら、
「…え?」と、中からの(熱い?)会話に、
瞬間冷凍で固まる姿を想像していただければ、
楽しいかと思われます。